南家が5巡目にこの手牌になりました。
6巡目のをツモ切りした直後、上家の親がを手出しすると、「チー」、を切ってイーシャンテンに構える南家。
ほどなくが出て「ポン」、打。
11巡目、北家がツモ切りしたで「ロン」
たった2千点のアガりでしたが、この南家、実は相当な強者なのです。
局面をもう少し補足しておきましょう。
東場は開局から荒れ模様で、西家のAさんが、リーチ・一発・ツモ・ドラ1・赤1・裏2のハネ満スタート。
次局は、親を迎えたBさんが、Aさんから早々にダブ東を仕掛け、赤とドラをうまく使い切っての4千オール。
その1本場、起家で親ッカブりしたCさんが、ポン、ポンと仕掛けを入れ、中盤過ぎにAさんが切ったで「ロン」
ドラは無いものの、赤と役牌入りのトイトイなので、マンガン手となりました。
東3局は、南家のDさんがピンフリーチをかけ、首尾よくツモり、裏が乗って1300・2600のアガりをモノにしました。
第2打に親のDさんが切ったを今度はチーしてきたのです。
更に、Aさんの切ったをポン。
6巡目を終わった時点のCさんの河は、このようになっていました。(ドラ)
マンズの一色手が濃厚でしたが、もしかするとドラ1を組み込んだチャンタ手も考えられる河に見えました。
8巡目、親のDさんがを切ると、これも「ポン」、打牌は生牌のでした。
さすがにここまで仕掛けられると、マンズのホンイチで、まだ河に顔を見せていない生牌のやが危険牌候補の一番手のように思えました。
11巡目、意を決した北家のAさんがドラのを横に曲げてリーチ宣言すると、「ロン」の声。
声の主は、3フーロしているCさんでした。
チャンタ・ドラ2の3900点。
そして冒頭の仕掛けが生まれる南1局を迎えることになるのです。
南入した時点での各家の持ち点を比べてみましょうか。
東家Cさん +900
南家Bさん +7700
西家Aさん ▲6800
北家Dさん ▲1800
このような状況で、トップ目に立っている南家Bさんの手牌をもう1度ご覧ください。
Bさんは強者の必要条件である《4メンツ1雀頭をツモの延長線上に作り上げる》技術を持っていましたし、トップ目の犯す《軽い仕掛け》への警戒感も人一倍ありました。
にもかかわらず、7巡目に上家のCさんが切ってきたに間髪入れず「チー」の声をかけたのです。
本来であれば、次のような最終形を目指してメンゼンで打つはずのBさんが…
理想の最高形を早々に断念してまでに仕掛けを入れたBさんの真意とは?
それはやはり、開局にハネ満を親ッカブりし、東2局にBさんに親満を引かれ、アッという間に1万点も沈んだCさんが、仕掛け技を駆使して僅かではあるものの、南入の親番を迎えプラスの世界まで息を吹き返していたところにあったのです。
とくに、東ラスでのチャンタ仕掛けでのアガりに、Bさんは要警戒モードに入らざるを得なかったのです。
そしてその時点での河は
この後、をポンしての生牌のを切ってタンキのテンパイとしたわけですが、Cさんのアガり形をもう1度見てください。
そうなんです。Cさんは5巡目に《テンパイとらず》の荒技を入れていたのです。
5巡目に生牌のを切れば
このテンパイがとれていたのです。
でもCさんは《テンパイとらず》を選択しています。
それは何故か?
このペンテンパイをとって、2千点をアガるのを拒否したのではなく、Cさんは仕掛け始める前から、ドラのは複数使いしてアガろうと決めていたのです。
一般的には、そのような希望を持っていたとしても、『そんなにうまくいくわけではない』という常識論から、いったんペンのテンパイにとっておいてから、ドラを引き込んでシャンポン待ちに替えたらいい、そう考えるのが普通です。
ところがCさんは違いました。
Cさんは、麻雀というゲームを《点》で打つことを良しとしないところがありました。
《点》と《点》をいくら繋げたところで、それは永遠に《線》にはならない。Cさんはそのあたりを強く意識する打ち手で、アガるときには、できるかぎり《線》になっていくようなアガり方を見つけようとしていました。
ですから、テンパイをとった後での手替わりや、テンパイしている手牌からをポンしてを手出ししてタンキに待ち替えするような手順は拒否していたのです。
このままリーチをかける人は別として、手替わり待ちヤミテンをしているとき、やが出てしまうと「ロン」とアガってしまうようなアガり方は、Cさんの『麻雀観』にはありませんでした。
これは冒頭の仕掛けを施したBさんにも当てはまっていて、やが複数山に眠っているとキャッチしている時などは、手中のをも河に切り飛ばし、手牌をイーシャンテンに戻していることさえあるのです。
それほどまでに、BさんもCさんも、培ったキャリアの中で、《点》のアガりの脆さと、《線》のアガりの強さを体感してきたようなのです。
カンのチーを入れた巡目の親Cさんの手牌はこの形でした。
そして恐ろしいことに、Bさんがをチーした次順、Cさんが喰い下げられた牌はでした。
《線》と《線》との死闘は、いつの時代にあっても、観る者を麻雀の深遠にいざなってくれます。