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須田良規プロ 特別書き下ろしコラム「雀立つ門(すずめたつもん)」
第十四之門 「じゅんばんこ」(2010/09/30)
 先日ある知人が、こんな話をしていた。
「自分が生まれて一番最初に発した言葉知ってる?──俺は、『すいません』だったんだって」
 これは、産声の類いとか、ママーとか、本能的に赤ん坊が口にするようなものはもちろん除いた範囲でのことである。彼が盆に実家に帰った折、母親からそんな思い出話を聞かされたらしい。
 まだあどけない彼を背中に、雑踏の中を必死に謝りながら掻き分けて道を急いでいたのだろう。ふいに母親の真似をして彼がつぶやいたのが、申し訳なさそうなその言葉なのであった。
 
 赤ん坊というものは本当に親に似るものだと思う。それは、遺伝的な理由も無論あるのだろうけれども、親のする普段の姿勢や、言葉遣いなどを真似するからである。
 2歳になったうちの娘は、スーパーやコンビニへ一緒に買い物に行くと、レジに並んだときに
「じゅんばんこ!」
と得意気に叫ぶ。
「そうそう、順番ね」
 保育園で覚えたのか、ママに言われたのか。周囲の暖かい目に気恥ずかしくなりながらも、ルールをきちんと守って大人しく並んでいる幼い姿に、心を打たれる。
 私はどちらかというと、臆病で控えめな人間だと思う。正しいことを正しいと、声高に主張する勇気はあまりない。こういう社会通念を守ることは当然だとは思うが、自分がそれを遵守することに強い意志があるわけではない。自己中心的に生きてしまうことで、周囲に及ぼす迷惑や、それにより自己の体裁を保てなくなるのを避けたいというだけなのである。
 だからきっと、この子もそうやって小市民的な考え方で、波風立てずに生きる常識を探って大きくなっていくのだろうと思う。もちろん躾や教育を疎かにしたくもないが、控えめな性格のおかげで結果“いい子”になってしまうのは、そう悪いことでもないし、珍しいことでもない。
 ところが先日、ベビーカーに娘を乗せて駅のエレベーターの前で待っていると、エレベーターが来た瞬間、横から歳の行ったオバさんが当たり前のような顔をして入っていった。
 実はこういうことは初めてではない。確かにそのオバさんも老人と呼べる年齢なのかもしれないが、こうやって世界中の人種の中で自分のような年寄りが最優先でエレベーターに乗ってよい、と考えるオバさんは少なからずいるのである。何度かこういう人を見過ごしてきたし、同様に見過ごして唇を噛む母親たちも見たことがある。
 ある日のMaru-Janで、オーラスの西家、ダントツの南家と12200差の2着であった。

牌譜ファイルはこちら

 ドラは五筒でなんとこの配牌。
一萬二萬三萬二筒五筒五筒五筒赤五筒九筒四索五索七索発 ドラ
五筒

 ハネツモか6400以上の直撃条件で、このドラカンコは僥倖であろう。しかし喜びも束の間、3巡目にしてトップ目からリーチが入る。
一索発六筒
 やれやれ、である。
 私のMaru-Janの放銃率は、だいたい例年11%後半と、性格そのままの控えめなものである。打ちたくも、ないが──
 その一発目を受けて、私の手牌。
一萬二萬三萬三萬二筒五筒五筒五筒赤五筒四索五索七索八索 ツモ
六索

 リーチ棒が出たことにより、跳満の出和了りで良くなった。
二筒はカンコ持ちの筋だが、渋々切り飛ばすしかない。
 一発目──、セーフ!
 
 そして6巡目、
一萬二萬三萬三萬五筒五筒五筒赤五筒四索五索六索七索八索 ツモ
九索

 カンすれば聴牌だが、三萬単騎。それでもどうせ切れないからと、そうする人もいるかもしれない。しかし、正しい和了りの道を辿るために、必要な勇気というものがある。
 打三萬で、カンコ持ちのノーテンキープ、とする。
一萬二萬三萬五筒五筒五筒赤五筒四索五索六索七索八索九索

 これも──、セーフ!
 萬子や索子でノベタンに伸びれば、カンしてリーチドラ5だ。
 そうして7巡目に引いたのは、もう一つ待ち望んでいた、ドラにくっつく四筒であった。
一萬二萬三萬五筒五筒五筒赤五筒四索五索六索七索八索九索 ツモ
四筒

 性格上大人しくしたいのは山々だが、安易に逃げのカンをしなかったのも、ここで4枚持ちのど真ん中を切るのも、トップを取るために必要な勇気であった。
五筒切りリーチ!──セーフ!
 もちろんこれで放銃することもある。しかし、譲ってはいけないものを守るために、主張しなければいけないことが世の中には確かにある。
 メンピンドラ4の跳満を上家が掴んで、私の蛮勇は身を結んだ。
一萬二萬三萬四筒五筒五筒赤五筒四索五索六索七索八索九索 ロン
三筒

 エレベーターの中へ滑り込むオバさんの腕を、私は咄嗟に掴んだ。
「並んでるでしょう!?見えないんですか?」
 オバさんは、びっくりした表情でこっちを見上げた。そして何か理解不能な出来事でもあったかのようにぶつぶつ文句を言いながら、エレベーターを出て行った。
 見知らぬ人を諌めるなんて、今まではとても出来なかった。波風立てずに生きられればそれでいいし、子供がそれを見て世渡りの仕方を真似しても、特に問題などないと思っていた。
 しかし、せっかく覚えた「じゅんばんこ」という言葉を、私の心を打った健気にルールを守る姿勢を、無意味なものにしないために譲れないことがあると思った。
 小心者の頼りない父親であるが、大切なことは勇気を出して言えるようにしよう。
 私がそうすることで、きっと娘も、必要な勇気というものをどこかで、真似をしてくれるだろう。
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