「半荘における平均アガリ回数は?」と訊かれたら、あなたは何回と答えますか?
1回ではないということは体感でわかっている人は多いと思いますが、では2回なのか3回なのか、はたまた4回なのか…
天運が高い日は面白いようにアガれますし、低い日は早くやめたいと思うくらいアガれなくなります。
で、そのアベレージは?何回になるのでしょうか。
〈2.2~2.4回〉
初級者であろうと上級者であろうと、おおよそこの回数に収束されるようです。
連荘もありますから、半荘平均10~11局消化するとして、自分の出番(アガれる番)は2回少々。
そう考えたとき、アガりのない残り8局少々の過ごしかたは、当然のことながら打ち手の未来を占ううえで、とても重要なポイントになってくるのです。
毎局アガりに向かって打つ人もいれば、イケそうな手の時に絞って打つ人もいます。
あるいは子方の時は攻めっ気を抑えているものの、親番になると人が変わったかのような《猪突猛進》ぶりを見せる人もいます。
たった2.2~2.4回しかアガれないことを理解していながら、打ち手のサガと申しましょうか、手牌を目にしてしまうと、ついついアガりを目指しテンパイを目指す生きものに変貌してしまうようなのです。
南1局南家7巡目の手牌です。
前のゲームを逆転トップで締めくくり、その勢いも手伝って、ここまで1万点ほどプラスしているトップ目です。
2番手の親とは8千点差、3番手の西家とは1万5千点差となっています。
場にはが1枚切れているだけでしたから、待ちも悪くなく、リーチをかけるのかなと思っていたら、
何と、いまツモってきたをツモ切りしたではありませんか。
そして次巡、場に2枚切れのを引いてくると、スッとも手放す南家。
この2巡の間、場にはが1枚、また1枚と切られ、あとは残り1枚だけになってしまいました。
そこへ親からリーチ。
親も前巡を切っていました。
もしドラのを切って即リーチをかけていたならば、出る出ないは別として、この親リーチは防げていたはずです。
南家はリーチ一発でを引かされ、安全牌のを切りました。
そして次巡、ドラのを引き入れてマンガンテンパイを果たし、打。
「ロン」
無情にも親の手牌が開けられました。
リーチ・裏1の3900点でしたが、放銃した南家の表情には一点の曇りもありませんでした。
アガり逃しをしていたはずで、もっと悔んでもいいところなのに…
気になった私は、ゲーム後に訊いてみました。
「どうしてテンパイを取らなかったの?」さらに、「アガり逃ししたのに、どうして真っすぐ当面の敵である親に向かっていったの?」
南家の答えは明快でした。
「前のゲームで逆転トップがとれて、気分も良かったし、手応えも感じていたので、ドラを手放してまでノミ手リーチを打つ気になれませんでした。」
「わたしは、マージャンはただ目の前の手牌を最短距離でアガりをとりにいくゲームだとは考えていません。」
「とくに調子がいいなと感じている時は、高打点を目指して打つように心掛けていて、そのチャンスを失いたくないのです。」
「でもその経過で放銃したり、アガり逃しをしてしまうと、ゲーム展開が悪くなっていくことだってあるでしょう?」
私は意地悪な問いかけをしてみました。
南家は平然と答えました。
「マージャンって、放銃はいつだってついて回るゲームだと思っていますから、自分が目指す道中で放銃することについては、所得税みたいなものだと考えています。」
なるほど!そんな考えで放銃している人もいるのか、私は感心しきりでした。
前局に引き続いての1本場。
ほぼ、親と並びトップ目の南家が8巡目に次のような手牌と向き合っていました。
は1枚切れでしたが、他の有効牌はまだ顔を見せていない状況でした。
そこへ、場に1枚切れのを引いてくると、南家は迷うことなくを河へ。
へえ、トイトイと七対子に決め打ったのかな、と見ていると、次巡、を重ねて七対子ドラ待ちのテンパイになりました。
リーチをかけるのか?と思いきや、南家はドラのを河に放っているではありませんか。
えっ?!テンパイをとらない!?
10巡目、が暗刻になって打。
11巡目、北家がツモ切りしたをポン。
この間、11巡目に西家から、12巡目に親からリーチがかかってきましたが、どこ吹く風、真っすぐに打ち進める南家。
決着は14巡目に南家がをツモってのハネ満和了という形でつくわけですが、このアガりを結果論として片付けてしまうのは、あまりにも不自然と思い、ゲーム後の質問に畳み掛けてみました。
「高打点のチャンスを失いたくないという考え方からいけば、ツモって裏が乗れば倍満までいけるドラタンキの七対子リーチではなく、ドラを切った選択に矛盾を感じたのですが…?」
「ええ、前局が無ければわたしもドラタンキで即リーチしていました。」
「でも前局、結果としてアガりを逃した上に、相手に放銃して終わったわけですから、その事実は認め、次局に入るとき、少し修正をかけなければうまくいかないのかなと思ってました。だから七対子ドラ待ちのテンパイをとらなかったのです。」
「もしあの局、七対子ドラドラが炸裂する局だったとしたら、ツモでのテンパイではなく、ツモでの待ちテンパイが入ると考えていましたから、トイトイへの移行は、少し修正をかけたということです。」
〈修正力〉。言葉で書くのは簡単なことですが、実戦において目の前にある打点系テンパイをとらず、その言葉通り修正していける打ち手はほとんどいません。
南家は、マージャンを打つうえで、いや、マージャンで常勝していくための〈肝〉を実践している恐るべき打ち手なのでした。
アガりを重ねていけば、そのうち高打点系の手も入ってくるだろう。
連荘を重ねていけば、そのうち親満級の手も入ってくるだろう。
そう考える打ち手も多いでしょうし、その考え方が間違っているとは思いません。
ただひとつ言えることは、初級者であれ上級者であれ、半荘平均2.2~2.4回しか和了できない厳然たる現実があることを打ち手は忘れてはならないということです。
『無駄玉は打たない』
私の金科玉条です。