テンパイの形には5つの形があります。
多くの打ち手が愛する[リャンメン形]、ちょっと苦しい[カンチャン形]、時として効果的な[シャンポン形]、変幻自在で私がこよなく愛す[タンキ形]。
と、ここまではよく目にするテンパイの形ですが…問題は[ペンチャン形]。
シュンツ型のテンパイでも最悪形とされ、この[ペンチャン形]を見ただけで、《手牌のガン細胞》と思えてしまう打ち手もいるほどです。
リャンメン形に変化するには2手かかりますし、変化したところで[3~6]か[4~7]というCクラスのリャンメン形しか生まれませんから、この《ガン細胞》はできるだけ早く手牌から切り捨てたほうが、シャンテン数は落ちるものの、後々アガり易い手牌に生まれかわる可能性があります。
次の手牌をご覧ください。
東2局南家4巡目のこと。
赤ドラドラの好手牌、『アガりを逃さないように打たなくては』と、打ち手は慎重にを河に置きました。
を引き、リャンメン形が2ヶ所になったリャンシャンテンなので、あとはネックに見えるペン、あるいはかをダイレクトに引いてくることが出来れば、アガりにぐっと近づくと打ち手は考えていました。
【手牌を育て 心を育てる】
これが私の麻雀哲学になっていて、手牌を育てるとは、手役作りをするという意味のほかに、アガり易い組み合わせを工夫して増やしていくという意味があります。
麻雀は絵合わせゲームではありません。
目の前にある13枚だけを見て、シュンツになってない部分や、アンコになってない部分の穴埋めをしていくだけの麻雀では、何も育たないのです。
アガればマンガンやハネ満になりそうな手牌がやってくると、つい慎重になり、「もしここが埋まったら…、もし外していって裏目を引いてしまったら…」というモシモシ病患者になると、『手牌を育てる』なんて話は何処へ、ただの絵合わせゲームに終始することになります。
手牌をもう1度ご覧ください。
ワンズの下目が異常に良さそうな場況では(やがパラパラ切られている)を1枚外しておく手法もありますが、まだ4巡目なのでレアケースと考えます。
孤立牌のにやがくっつけば、アガり易いリャンメン形が生まれますし、仮に引きでもペンよりは格段にアガり易いカン受けが生まれます。
最近は何万局、何十万局のデータを駆使した確率論がもてはやされ、ペンを引いてくる確率と、孤立牌にやがくっつき、更にそこがシュンツにまで伸びる確率の比較をし、ダイレクトにペンが埋まる確率のほうが高いと判断する打ち手が多数派を占めています。
確かに、ひと昔前までは、ネットやモバイルでの麻雀も無かったし、自動配牌式の卓もありませんでした。
昭和の化石のような考え方や打ち方をする私のような人種は、『ツモってくる牌の来かたも違ってきたし、メンゼンでテンパイする速さも2~3巡早まった』と、その進化した仕組みそのものに乗り遅れているのも事実でしょう。
長年培ってきた職人芸が、文明の利器に押し潰されていくような感覚に陥るときもありますが、それでも頑なに守り続けていく責務も感じています。
またまた脱線してしまいました。
4巡目にこの手牌から何を切るのか?
《ガン細胞》の→落とし。この一手だと私は考えます。
他のリャンメンが埋まって、ペン待ちのリーチでもいいじゃないか!アガればマンガンあるし、たとえ空振りしても悔いはないと考える人は置いといて…
アガりたい手牌であればあるほど、急いだ手順は踏まないこと、これは必勝法のひとつです。
昔の人は良いことを伝えてくれています。
《急がば回れ》と。
→と外すと、手牌はの受けが無くなるリャンシャンテン形となりますが、孤立牌が活きたとき、和了確率が比較にならないくらいアップします。
なぜなら、ペンチャン待ちになると、欲しい牌は[尖張牌]と言われるシュンツ作りのキー牌[3と7]になってしまうからです。
ペンチャン形が最悪形とされる理由は、一手替わりでリャンメン形にならない不便さより、他家に吸収されやすい尖張牌待ちになってしまうからなのです。
この手牌が4~5巡目の序盤のものでしたら、生牌の白や1枚切れの北より先に、ペンチャン形の→と外していく打ち方を覚えておくと、[穴埋め式絵合わせ麻雀]から解放されます。
ツモという好感触から、この後も美味しいツモたちがやってくる予感がします。
そうなると、タンヤオ・ピンフはもちろんのこと、三色まで付いてくるかも…
ペンが埋まる喜びより、手牌を育てていく喜びを知ると、皆さんの麻雀ライフが今まで以上に豊かなものになると確信しています。
さて、最後に摩訶不思議な話をひとつ。
南1局西家6巡目、▲1万点
さてここで何を切っていくのか?
「えっ?!」
「→のペンチャン外し以外考えられないから、問題になってないよ!!」
当然ですよね。ましてや、マンガンが目の前にぶら下がっている手牌。
ペンチャン形は《ガン細胞》だから、慌てず騒がず、早めに外していく話をしてきた私が、まさかこんな易しい出題をするとは…と思った方も多いかもしれません。
実は、この手牌からは…→のリャンメンを外し、のペンチャン形はフィニッシュに温存したほうがいいんです。
それはなぜか?
その答えは持ち点にあります。
南入を迎えてマイナス1万点の西家に良い風が吹いているとは思えません。
むしろ逆風が吹いているはずで、そのような状況下においては、《ガン細胞》と言われているペンチャン形が活躍しだすのです。
つまり、順風下ではないときに駆使する[逆流打法]のひとつとして、ペンチャン残しの手筋が有効となるのです。
とくにこの手牌のように、メンツ選択をしなければならないとき、その選択肢にペンチャン形が含まれているのであれば、喜んで温存することを強くおすすめします。
麻雀は表裏一体のゲームです。
誰もが当然と思える一打も、自分の置かれている状況が変われば悪手になり、誰もが「それはないだろう」と思ってしまう一打も、状況によっては最善手になりえるゲームであることを知っているだけで、思考の幅が広がり更に楽しくなるはずです。