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須田良規プロ 特別書き下ろしコラム「雀立つ門(すずめたつもん)」
第二之門 「経験」(2008/11/27)

   雀屋のメンバーなどという不逞の輩の分際で──、恥ずかしながら先日一児の父親となった。
   私自身、さんざん親不孝をしてきたものの、流石に今回ばかりは田舎の実父も喜んでくれたようで、すぐに実家から飛んできて、初孫の誕生を祝ってくれた。

   そのとき驚いたのだが、頑固で不器用な昭和の親爺という印象しかなかった父が、とても手慣れた様子で赤ん坊を抱え、上手にあやしていたのである。
   ミルクを飲ませ、背中をとんとんと叩いてゲップをさせていた。
   ゲップ一つでも、結構難しいものなのである。父が帰ったあと、私もこれからしっかり子育てをしなければならないなと決意した。
   流石に嫁に任せっ放しで、独り身の頃のように、日々奔放に遊び歩くわけにはいかない。
   こういうときMaru-Janの存在は有難い。赤ん坊をゆりかごに寝かせ、左手で揺らしながら自宅で麻雀を打つこともできるのである。

  東1局西家9巡目の手牌であった。⇒ 牌譜ファイルはこちら
三萬三萬三萬四萬赤五萬二筒二筒三筒三筒三筒四筒五索六索七索 ドラ
八筒

   待ち牌は、一筒が河に1枚飛んでいる。
   三筒も上家が8巡目に飛ばしており、一筒二筒も容易に河に放たれそうなイメージがあった。
   では三筒四筒どちらを切ろうか。
   これは結構微妙な手牌だと思う。しかしおそらく──四筒切りの三萬-六萬二筒待ちのタンヤオリーチが期待値的には微差で勝るだろうと思われた。
   こんなもの瞬間に計算できるわけではない。ただ、経験が私にそう教えていた。
   河にもう1枚でも一筒が出ていたら、もっと明確に決断したと思う。
   ゆりかごの我が子は、不思議そうにこちらを見ていた。
四筒切りリーチ。結果は六萬を一発でツモっての満貫であった。

三萬三萬三萬四萬赤五萬二筒二筒三筒三筒三筒五索六索七索     ツモ
六萬
    ドラ
八筒
    裏ドラ
五筒

   ではちょっと期待値を比較してみよう。
三筒切りリーチはこの形だ。
三萬三萬三萬四萬赤五萬二筒二筒三筒三筒四筒五索六索七索

   ロン和了りの場合、一筒で3900、四筒で8000だ。
一筒四筒も残り3枚ずつであり、
3900×3+8000×3=35700
   これが四筒切りリーチだと、三萬-六萬二筒の7枚で5200となる。
5200×7=36400
   つまり、四筒切りリーチが若干だが良い。

   ツモ和了りの場合、三筒切りリーチは一筒で5200、四筒で跳満だ。
5200×3+12000×3=51600
四筒切りリーチは三萬-六萬二筒どれも8000。
8000×7=56000
   これも同様。

   結局、ロン和了りもツモ和了りも四筒切りリーチが勝る。
   もう1枚でも一筒が出ていればもっと明白な差になるだろうという感覚も合っていた。

   もう、10年メンバーをやっている。
   私自身、計算能力が優れているわけでは決してない。むしろ暗算など苦手な方だ。
   ただ、瞬間的に損得を判断する経験だけは、確かに体に染みついていたのかもしれない。
   経験というものは本当に馬鹿にできないものだ。

   ゆりかごの中から、赤ん坊がアーアーと笑っているのを見て思い出した。
   父が赤ん坊を上手に世話していたこと──、それはつまり、父の過去の経験の賜物だったのである。
   30年前、父が初めての子育てに苦心して培った経験が、確かに父の手に残っていたのである。

   昔から、決して父と仲のいい方ではなかった。私は反抗的だったし、古い人間だった父とはいつも相容れなかった。
   それが、私が自分の子育てをして初めて──
   子供のオムツを換え、ミルクをやり、風呂に入れて──、自分の記憶になかった、父の愛情と経験を知ったのである。


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