「あー!やっちゃった!」
台所で、昼食を用意していた家人が叫ぶ。
その素っ頓狂な声に思わず、第1ツモをそのままツモ切ってしまったのである──。
私は隣室でMaru-Janに臨んでいた。開局の西家である。
私がツモ切った牌は、リャンカンをすっぽり埋めるであった。
「面子出来たのに切っちゃったよ──。どうしたの?大きな声を出して」
「・・・携帯無くしちゃった。今気づいた」
「また?この前、家の鍵無くしたばかりなのに」
「多分、昨日ファミレスに忘れてきたんだと思う。ちょっと取ってくるね」
家人はわりとそそっかしく、よくこういう失敗をする。
とはいえ取り返しのつかない過ちなどそうそうあるものではないので、特に普段目くじらを立てるようなことはない。
しかし今回はこの手牌だ。壊してしまった面子、どう取り繕おうか──。
「声に驚いて、切り間違えたんだけど・・・」
私が不機嫌な様子だったので、家人は、そそくさと表に出て行ってしまった。
次巡が重なり、打
とする。
混一か対々か七対子か。それでもがあればなお良かったのは言うまでもない。一人、溜息をつく。
そこへ上家の仕掛けが入った。をチーして打
と来る。
序盤にこのチーである。場況的にタンヤオドラドラ以上は流石に濃い、か。
私の手は5巡目にこうなっていた。
七対子にしても、ドラのは持たれていそうなところ。
7巡目、ツモ。山にいるならこっちの方か。和了りにかけるなら、重ならないドラなんか残したって意味が無い。打
。
案の定、上家がそれをポンした。
ここは賛否両論あるかもしれないが、自分が和了るためにドラを鳴かせることは罪ではない。最初失敗したからといって、中途半端に打って和了りを逃す方が、自分にとっては重罪だ。
上家の食いのおかげで、すぐにツモ番が回る。
こうなれば打だ。望外の成長に、我ながら目を見張った。
11巡目、ツモでリーチ。
次巡、対面の親からで出和了った。
リーチチャンタ一盃口裏々の跳満である。
第一打で、打と行ってなかったら、まずこの最終形にはならなかったと思う。
失敗が、思わぬ好結果を生むことがある。家人に少し、感謝した。
この半荘をトップで終え、しばらくすると家人が上機嫌で帰ってきた。ファミレスで携帯が見つかったのだろう。
「あった?」
「うん。あと、これも」
家人が得意そうに掲げて見せたのは、先日無くしたはずのキーホルダーであった。
「携帯はすぐ見つかったんだけど。駄目元でお店の人に聞いてみたら、鍵もそこにあったの」
そそっかしい家人が、携帯を無くしたことも実は幸運なのであった。
「そっちも怪我の功名だったね」
私がそう話すと、家人は
「何それどういうイミ?」
と無邪気に笑って──、また台所に立ったのである。