「なるべく<キズ>は作らずに打て!」
私が若かりしころ、尊敬する方(プロではありません)から事あるごとに教えていただいた貴重なお言葉です。
あれから40年、時代は昭和から平成、平成から令和へと移り変わり、プロたちの思想や思考も大きく変化しましたが、私の脳裏に残っているこの言葉は輝きを失っていません。
東2局の親、6巡目の手牌です。
ドラと赤があり、5800は保証されている手牌ゆえ、を切って完全イーシャンテン形にする選択が多数派を占めるはずです。
メンゼンで進めたい気持ちはあるものの、数巡経っても手牌が動かないこともあるので、ポン、ポン、チーはもちろんのこと、のチーまでも考慮しての喰いタン想定は、親として当然の措置。
いつの場合でも、メンゼンで進行できないことを想定して打っていくことは、プロならずとも打ち手の思考にはあるべきものという考え方は普通でしょう。
では切りではなく、切りという選択はどうなのでしょう?
マンズの3メン形を固定する打ち方になるわけですが、数巡経ったときの喰いタン策にやがポンできないという不便さを感じる人は多いかもしれません。
手牌への安心感も切りよりは減ってしまうはずです。
それでもメリットはあります。
その筆頭がツモと来てくれたとき。
6巡目の河にが切られていて、そこから何巡後かにが引けるわけですが、当然のことながらを切ってのリーチとなります。
完全イーシャンテンで打ったときは切りのリーチとなります。
3メン形だからツモれば同じだろうという考え方は一理ありますが、待ちリーチで出アガりしやすい牌は言うまでもなくです。
ツモだけに頼らず、ロンアガりへの期待感を残して打ったほうが和了率はぐんと上がるはずです。
となると、切りリーチと切りリーチでは、もっとも場に出てきやすいでの和了率が格段に違ってきます。
昭和の時代から、ソバテンリーチは日常的な光景として繰り広げられてきました。
それは打ち手が安心感に浸れる完全イーシャンテン形の成せるワザで、テンパイ効率の誘惑に抗えないからなのです。
もうひとつ、先切りのメリットを。
こう構えておいて、ツモと来たとき、打とすれば手牌はこうなります。
そしてこの変化に合わせてくれるかのように、やから埋まってくれて待ちのリーチが打てるなら…
リーチ表示牌はかということになり、6巡目に手放したが河で生きてきて、「親リーチには通るかも」という心理に子方はなるのではないでしょうか。
余禄としては、ツモでテンパイすると
での親満ロンアガりに加えて、ツモで8000オールという夢物語もあり得ないストーリーではなくなるのです。
を抱えた完全イーシャンテン形は、そのが<キズ>になって和了率がダウンする可能性があることを承知したうえで、切りを選択することです。
完全イーシャンテン形に構えると、アガりが近づいたような錯覚に陥りやすいのですが、リーチ表示牌がロンアガりを阻む<キズ>になるケースも多いので、臨機応変に考えていくことが大切です。
では次に仕掛け手を見てみましょう。
東2局の親の手牌です。
5巡目にが出てきました。
もちろん「ポン」
当然のように完全イーシャンテン形に構えての打。
きわめて違和感のない進行に映るはずです。
すでにを仕掛けたのですから、やをポンしてもカン待ちにとれる形にしておくべきだという考え方です。
寸分のスキもない選択に見える切りですが、<キズ>の残る仕掛けになりかねないので注意が必要です。
の3メン形とカンという形、どちらから埋まりやすいかと訊かれたら、誰しも3メン形からと答えるはずです。
カンからチーできることだってありますし、自力で先に引いてくることだってあるでしょう。
そんなとき、を手出ししてテンパイをとるとよりのほうが必要な牌だったんだと子方に知らせることになります。
赤が5であることを踏まえると、数牌の重要度は必然的に4〜6に集まります。
とりわけ1・2・8・9という端に寄った牌への重要度は、ドラが絡まないかぎりほとんど無く、仕掛け手の場合には、ポン材として活用される程度の重さです。
そんな基本的思考のなか、よりが後から出てくる理由は何?と子方は考え始めるわけで
からの切り
からの切り
からの切り
からの切り
からの切り
からの切り
からの切り
この7パターンを想定します。
場況等の例外を除き、仕掛け手であることを踏まえれば
この4パターンに絞るはずです。
そしてこの4パターンのうち2つがを危険牌であると示唆しています。
本来であれば気軽に打ち出されるはずの端牌に子方の注意が向けられてしまうのです。
ですからダブを仕掛けたらを切って<キズ>を残さずに打ったほうがいいのです。
こうしておいて、引きや引きに備えておくと、手牌の幅も広がります。
いつの場合でも、カンチャン形はアテになりません。
上家以外の2人がパラパラとを切ってしまうことだってあります。
上家が切ったをチーしようとしたら、ポンされてしまうことすらあります。
ですからはアガるための保険の役割も担っているんです。
を引いたら→切りでターツをカンチャンからリャンメンに替えればいいのですが、やを引いたときにはひと工夫が必要です。
ダブドラ赤の親満イーシャンテン。
テンパイ効率で言えば切りの一手。
この10種どれを引いてきてもテンパイになります。
やが重なれば文句なしの3メン形テンパイになりますし、カンがチーできても、を切ればの待ちになりますから悪くありません。
それでもアガり易さという側面からは、切りを妙手としておすすめします。
えっ?と思われた方も多いでしょう。
を切ると手牌はこうなります。
テンパイする牌は
この6種類に減りますが、テンパイの落としどころとしては、ベストが先切りで<キズ>を消したなのでがチーできるメリットは、カンのチーより魅力的です。
更に、から先に埋まった場合、待ちとタンキ待ちのアガり易さを比較できるメリットがあります。
雀頭のないイーシャンテンに構える切りは、が埋まったときに打テンパイとなるため、ソバテンのは当然マークされるでしょう。
それに対して先にを切っておくと、埋まりやすいから引けたときに、打のタンキ待ちとなるため、打のタンキ待ちよりは、へのマークが薄まるため和了率がアップします。
ちょっとした手順の後先なのですが、ダブをポンしている親へのマークは思ったより厳しいものがありますから、効率よく打てば打つほどテンパイ形への<キズ>が残ることを覚えておいたほうがいいでしょう。
親番に限った話ではなく、メンゼンであれ仕掛けであれ、待ちになりそうなところへの<キズ>は作らないと心得るだけで、和了率がぐんとアップすることをお約束します。